「AIの乱用を止める唯一の解決策は、AIを使うことだ」
そう語るのは、シリコンバレー屈指の異色スタートアップ、Palantir Technologiesの共同創業者兼CEOのAlex Karpだ。
かつてCIAから資金提供を受け、対テロ情報戦を支援してきたPalantir。その強大なデータ分析技術は、いまや犯罪捜査や感染症対策など、社会のさまざまな課題解決に活用されている。
しかし、個人情報を大量に扱うPalantirの事業には、監視社会への懸念も付きまとう。プライバシーを守りながら公共の利益につなげるには、高度な技術力だけでなく、強い倫理観が問われる。
「私たちは、人間の知性を代替するのではなく、増強することを信じている」とPalantirは言う。データをめぐる攻防は、単なるビジネス競争の枠を超え、国家の盛衰を左右する地政学的競争の様相を呈している。
Karpの言葉からは、技術がもたらす光と影が見え隠れする。AIやビッグデータの活用は、私たちの生活をどう変えていくのか。巨大データが明かす人間の本質とは何か。Palantirの挑戦は、技術と倫理の狭間で、これからの社会のあり方を問いかける。
Palantirは2004年、PayPal創業者のピーター・ティールらとともにAlex Karpが設立したスタートアップだ。当初はCIAのベンチャーキャピタルから出資を受け、テロ組織の資金洗浄を追跡するシステムを開発。以来、対テロ情報戦を支援する存在として知られるようになった。
社名のPalantirは、J・R・R・トールキンの『指輪物語』に登場する「水晶玉」に由来する。「隠されたものを見出す」というのがPalantirのミッションだ。
Karpはドイツ観念論を学んだ異色の経歴の持ち主だ。博士号を取得したのち、ティールとスタンフォード大学の法科大学院で出会う。
ふたりの関係は、リベラル派のKarpと保守派のティールという対照的な立場ゆえに、かえって強固なものになったという。Palantirは、シリコンバレーの多くの企業とは一線を画す、国防や安全保障に特化したユニークな存在として知られている。
「ピーターがなぜ私を共同設立者に選んだかは神のみぞ知る」とKarpは言う。
Palantirの強みは、膨大なデータから隠れたパターンを見つけ出す高度なアルゴリズムにある。同社はAIとビッグデータ分析を駆使し、テロ資金の流れや不審な取引を検知するシステムを開発してきた。
AIとは、人間の知的な活動をコンピュータ上で再現する技術の総称だ。機械学習の発展により、AIは大量のデータから自動的に法則を見出すことが可能になった。ディープラーニングと呼ばれる手法では、人間の脳神経回路を模したニューラルネットワークを用いて、より複雑なデータの分析を行う。
Palantirは、こうした最先端のAI技術を応用し、金融取引や人々の行動パターンなどのビッグデータを解析。テロリストや犯罪者の芋づる式検挙に貢献してきた。
また、同社の技術は感染症対策にも活用が期待されている。ウイルスの発生源や感染経路を特定し、パンデミックの早期収束に役立てる可能性がある。
「優れたデータと適切なテクノロジーがあれば、今日の人々や組織は困難な問題を解決し、世界をより良く変えることができるのです。」
Palantirのビジョンは、AIの力で社会の安全と効率を高めることにある。犯罪や感染症から人々を守り、より良い意思決定を支援するー。その未来は、まさにPalantirが切り拓こうとしている。
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